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おらが村のアーティスト/「ディア・ドクター」

無医村にお医者さんが着任すると、報酬はいくらもらえるか?

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僕は知りませんでした。

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その話しが、この映画の中に出てきます。

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「ディア・ドクター」

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村民2千人に満たない過疎の村。

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その村で、誰からも信頼されていた医師の伊野先生(笑福亭鶴瓶)が、いなくなります。

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なぜ、彼は、失踪したのか。

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看護師(余貴美子)も、若い研修医(瑛太)も、戸惑うばかり…。

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独り暮らしの農家のご婦人(八千草薫)を診察中だったというのに…。

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映画は、在りし日の献身的な伊野先生を振り返る…

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ミステリ仕立てです。

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ミステリには「答え」というものが必要でありますが、それは、この映画でも、きっちりおさえられているようです。

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自分がいなくなれば、村に医者はいなくなる。

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そうとわかっていて、なぜ、彼は、消えたのか?

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その謎を追うことが、単に過疎の医師不足についてばかりでなく、医療の「療」とは、なんのことなのか?を問うていく姿勢につながっている。

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観るものを惹きこんでいく姿勢です。

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いま、ここで言うミステリとは、なんのこと?

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はい、それ、ちょっと言いましょう。

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ミステリの本質とは、「答えを探す」ものであり、その意味で、失踪した伊野先生を探すこのドラマは、ミステリの本質を捉えており、さらに

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「なぜ、彼は、あわただしく逃げねばならなかったか」を追うストーリーは、謎の探求を通してテーマに迫る、というミステリの核心を突いとります。

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と、ここまで言って、以下は僕の体験から言わしてください。

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医者という人々は、アーティストに似ている。

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そう言っても、たぶん、原作・脚本も書いた西川美和監督は、否定したりはなさらないんではないだろか。

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僕自身が、喘息持ちで精神病患者であるところから、また親しい人を胃ガンで亡くしているところから、さらには父がリウマチ患者であるところから、

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内科、呼吸器科、胃腸科、整形外科、神経科に精神科、といったところを訪ねた経験がありますが、

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思うのは、ですね、

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ああ、お医者さんというのは、言ってみれば「アーティスト」のようなところがあるな…と。

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もうずいぶん前の話しになりますが、喘息用の吸入薬として用いているステロイド剤を、うっかり切らしてしまい、放置しておいたら発作が起きてしまったことがあります。

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僕の主治医の先生は東京でしたので、そこまで行ってる時間的余裕がない。

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仕方ないので、かなりあわてて近くの内科へ駆け込み、吸入薬のプラスチックボトルを見せて、

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「これと同じものは、手に入らないか?」

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と、尋ねたところ、そこの先生(女医さんでした)が血相変えて、

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「あんたね! こんなものにいつまでも頼ってると、肺に穴があくよ!」

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と、すごい剣幕なんですね。

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こっちはぜーぜーごほごほ、苦しくって、反論どころじゃありません。

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先生は、ステロイド剤というものが如何に危険な薬剤であるかを延々と僕に説教し、治りたければ、根本からあなたの体質を変えるしかないと言って、僕に当座の処置として、点滴を打つことに決めました。

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まいったな…

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点滴につながった僕は、ぜーぜー言いながら、どこでもいいやと近場の開業医へ飛び込んだのを後悔しました。

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東京の先生にかかっている俺のほうが、この女医さんより、詳しいじゃんか…

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ステロイド剤が危険な薬物だったのは、数十年も前のこと。

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現在では改良され、副作用はゼロに近い。

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無知な田舎医者にかかったせいで、時間を無駄にしちまった…

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こんな点滴で、どうなるもんか…

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いや、ところがですね、

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その点滴が、効いたんです。

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発作が治まるのに数時間要しましたけど、たしかに点滴で苦しさから、解放はされたわけです。

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女医さんは、明日から体質改善の治療を始めるので、必ず来るようにと言い含めて、僕を病院から「追い出し」ました。

(もちろん二度と行きませんでしたよ。安くて最適な効果のあがる治療法を知っているのに、わざわざ、カネがかかって、おまけに肥満の原因になったりする「体質改善の注射」なんぞ、受けに行く馬鹿はおりません。しかし)

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とぼとぼと帰りながら、すっかり楽になった呼吸をしながら、僕は、いまの事態をどう考えたらいいか、悩んだものです。

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あの女医さんには、喘息治療の最新知識が、たしかに不足してると言える…

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しかし、時間はかかったが、こうして、俺は治った…

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これは、知識の有る無し以前に、「医療」に対する取り組み方の違いではないのか?…

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いま、改めて思い出しておりますが、

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デジカメ全盛の時代に、敢えてフィルムにこだわるプロがいるように、

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医療というものも、その医師が、ポリシーとして、「療」をどう捉えているかが、治「療」という行為に表れるのだ…

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と、僕はいま、患者歴の長い者として、そんな風に考えます。

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引退された、僕の東京の主治医は、ステロイド剤の効果を認めながらも、民間療法に関心を持ち、

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「乾布摩擦とカラシの膏薬が喘息に効く」

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という話しを真面目にする方でした。

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むろん、最新知識を絶えず勉強して、そのうえで民間療法やら昔ながらの療法やらを取捨選択しているのと、はじめから物知らずなのでは、まったく意味が違います。

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しかし、だからこそ、

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「どこか、医者という存在は“アーティスト”に似ている」

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と思うのです。

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世の中の動向がどうあろうと、自分の目と勘を頼りに仕事をこなしていくアーティスト。

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あの女医さんも、おそらく、地域医療の従事者としては、充分に機能してるのだろう。

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そうなると、問題は、患者として、「どの医療を買うか」ということにかかってきます。

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ちょっと絵に慣れた者なら誰も手を出さないような安っぽい風景画が、10万を超える値段で売られているのを見たことはないですか?

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あれは、ですね。

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ずばり言って「田舎者のための玄関飾り」なんです。

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そういう役割として、需要と供給を満たしてるのです。

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いつもより、いっそう皮肉に傾いてる?

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そうかもしれません。

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しかし、今回のこの文は、なにも皮肉を言うために書かれているのじゃありません。

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通常は「科学の一ジャンル」として見られがちな医学というものが、ヒューマンエラーも含めて「ひとの手跡」の強く刻印される分野だということ。

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それのお世話になる僕たちに、医療に対する新しい目が必要かもしれない、というそのことについて、

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伊野先生と村民の関係を追う西川監督の視線は、カバーしているのじゃないか。

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見つめあう鶴瓶さんと八千草薫さんの言葉にならない会話の中に、「医療 = 科学」という枠組みからはみ出すものを探そうとするこの監督の姿勢を見る気がするのでした。

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(ちなみに、僕の喘息は、ステロイド剤さえあれば、まったく問題ない状態です)

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Jack

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