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音楽の泉/Black Eyed Peas「The E.N.D」

「歴史」

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という考え方は、ロックの中に、在るでしょか?

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カヴァーソングを歌う、というロック・ミュージシャンは、昔からいた。

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ジョン・レノンがチャック・ベリーを歌ったり、ヴァン・ヘイレンがロイ・オービソンの曲をアレンジしたり、「カヴァー」というのは、珍しくはありません。

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さらに言うなら、ストーンズもビートルズも、初めはアフリカン・アメリカンの人たちが歌っていた「生活音楽」としてのリズム & ブルースを「かっこいい!」と思って音楽の道に入ったところがありますので、「ルーツに対するリスペクト」のようなものは、既にある。

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が、

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ちょっとカタく言いますが(カタく言う必要があるんですが)、彼らのしたことは、

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「歴史を刻む行為」

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だと言えるでしょうか?

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僕は、「HIP HOP」という形態が登場するまで、ポピュラー・ミュージックの世界に、「歴史」という考え方は無かった、と思っています。

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Black Eyed Peas です。

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Black Eyed Peasの最新アルバム「The E.N.D」です。

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前の「MONKEY BUSINESS」や「Elephunk」のほうが、実は好きなんですが、それはともかく(そのへんは、僕のトシと関係がある、と思っています)。

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今回のアルバムでは、DVD付きバージョンが発売されておりますので、安室奈美恵さんについて書いたとき(2008/8/17 「芸能・アイドル」参照)と同様、まぁこれも映像作品に入れちゃおう、ということで…

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HIP HOPと言えば、「ラップ」に「スクラッチ」、「サンプリング」と、様々な手法を取り込んできた音楽ジャンルでありますが、

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このうち、「サンプリング」について、申しましょう。

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わたくし、サンプリングという手法を初めて耳にしたときから今に至るまで、根本的には理解できていない人なのです。

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いや、電子音楽や現代音楽や、あるいはYMOがやっていたようなサンプリングなら、分かる。

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それは木々のざわめきのような「自然音」や「人の声」などを録音し、シンセサイザーによって自動的に音階をつけ、「誰も考えつかなかった新しい器楽」として、曲の中に組み込むことを意味しました。

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HIP HOPのサンプリングは、これとはまったく異なります。

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既に在る「ヒト様が作った音楽」の中から、特徴的なフレーズを切り出し、それを複数回組み合わせて、どう聞いても原曲と大きな違いがあるとは思えない作品を作って、その仕上がりを、

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自分たちのオリジナルの「新曲」として、提示してくるのです。

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そのとき問題になっているのは作曲手法というよりも、

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編集の方法

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だと言えます。

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Black Eyed Peasで言うと、「MONKEY BUSINESS」に収録された1曲目の「PUMP IT」は、映画「パルプ・フィクション」や「TAXi」のテーマソングとなった「ミザルー」という曲を、ほぼそのまま丸写ししたものだし、

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同じアルバムの最後のほうに収められた「UNION」という曲は、なんとスティングの「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」の歌詞だけ変えて「ラップを添えました」、と言ったほうがいいような代物です。

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「孤独な英国人」を歌った歌を採用し、「世界の連帯」を謳いあげる…。

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ここに、編集の意図があるわけですが、思い出すのは、美術の世界の出来事です。

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マルセル・デュシャンは、どこからか手に入れた男子用小便器を美術館に持ち込んで、

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「泉」

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とタイトルを付けるだけで、自分の作品として、世に認めさせてしまいました。

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HIP HOPのサンプリングは、このデュシャンの発想と、基本的にはよく似てる。

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何を作ったか

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ではなく、

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なにを採用したか

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が、より問題にされているのです。

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男子用小便器がアートとして認定されたあとでは、人々は、街角の公衆トイレにも「創作物」としての要素が置かれているのだ、と

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初めて認識することになるでしょう。

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「作品」という概念が無かった世界に、その概念が導入された“瞬間”を、僕たちは、知ることになるのです。

(それは、デュシャン本来のイタズラっぽい意図からすれば、イト可笑しく、ズレたことかもしれないんですけども…。

いや、こりゃまた、別のハナシ)

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これを、サンプリングという手法を使う、現代のポピュラー・ミュージックの世界に置き直して、見てみましょう。

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「ルーツ」とは、なんぞや?

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この問いを、誰にも解るかたちで発したのが、HIP HOPだと言える。

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ビートルズにせよストーンズにせよ、はたまたヴァン・ヘイレンにしたところで、

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「R&Bの影響が認められる」

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ということを漠然と指摘され、「“ある流れ”が感じ取れる」ということを、感覚的に、外から批評されていただけだった、と思います。

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HIP HOPは、サンプリングという手法によって、自らの出生地がどこにあるかを高らかに宣言した。

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ルーツ =「自分らの前に横たわる歴史」を、引っ張ってきたのではありません。

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歴史を参照したのでなく、その原曲を採用することによって、「ここに、歴史が創られた」と、いささか大言壮語めいた「発表」を行ったのです。

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これはポピュラー・ミュージックの在り方にとって、デュシャンの「泉」が世に出たときと同じくらい、革命的な出来事です。

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音楽が「歴史を構築しよう」とすることは、すなわち、「ロック」の否定でないのか。

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「♪ ロールオーバー・ベートーベン」と歌って、堅苦しい歴史に支配されてきた音楽を、

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「音楽史についての教養」がモノを言った音楽を

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解放したのがロックだったのじゃなかろうか。

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HIP HOPのサンプリングとは、ロックにとって、「淡い憧れ」でしかなかったようなルーツというものを、極彩色のクリアな映像のようにはっきりしたかたちで位置取りし、

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自分たちのよって立つ「ポジション」を明らかにしようとしたものです。

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それは「♪ ベートーベンをぶっとばせ!」と歌ったロックが、「分かりやすさ」をどこかへ置き忘れ、

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既に死に体となって久しいことを受けての動きでないだろか。

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それは、音楽というものが高度に多様化し、複雑化し、ジャンルはおろか、「なんのための創作なのか?」という根源的な疑問が生じているときに、

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ひとつの大きな異議申し立て =「アンチテーゼ」として機能する、とても解りやすい「簡略化」の発想ではないだろか。

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自分らがどういう意図を持って、

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誰を参考にし、

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誰に向けて作品を作ったのか、

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それを「クリア」にする手法なのです。

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フと思い立って、僕たちの周りを見れば、誰がなんのために作ったのか、高度なディシプリン =「学習された教養」を求めるような創作物が、いつの間にか、いっぱいです。

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作ったときから既にして「産まれてすみません」と言っているような、罪過と償いを同時に体現しているような、分かりにくく鬱屈した表現の時代は、もう終わりにしませんか

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…と、いうのが、HIP HOPのサンプリング手法の本質ではないか、と考えます。ふっふ。

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今回、アルバム「THE E.N.D」で、Black Eyed Peasは、サンプリングという手法を封印しました。

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宣言して自分たちのポジションを明らかにする必要がなくなったから、と見ましたね。

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「BOOM BOOM POW」というシングルカットもされ、全米No.1になったアルバムの1曲目に、彼らの意図は、よく出ている。

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「♪ あんたは千年、遅れてる」だって。

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いーじゃないの ♪
いいんじゃないの ♪

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流行りのデジタル・サウンドを全面に採り入れて、

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今どきの音楽地図の、いちばん突端の部分を俯瞰してお聴かせしましょう

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、というわけです。

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ワールドミュージックを意識したりする、これまでの細かい目配りは敢えて捨てて、

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音楽に夢中になる若い世代が入り浸るような、アングラ的なナイトクラブの感じで一杯です。

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すべてをデジタルサウンドに委ねて、朦朧と身を踊らせる「若さ」のための音楽。

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一見無機質な、機械的音響の奥から、

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いちばん活きのいい、ポピュラー・ミュージックらしいポピュラー・ミュージックをお届けします

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という宣誓が伝わってくる。

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いや、実を申さば、正直な感想として、

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あと二十年早く、このアルバムと出会いたかった。

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おそらくヘッドホンで、のめり込むように、ひとつひとつの音に耳を傾けたんじゃないだろか。

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息継ぎなしで全力疾走している雰囲気が、いかにも「若者のための音楽」です。

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「若さに対するメッセージ」というと、ついつい「夢を信じて、負けないで」なんて言いたくなったりしますけど、それを言わないで先鋭的につっぱらかってみせることで、「体現」している、という辺りも好もしいと思うんだなぁ。

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(ワールド・ツアーで、日本にも来るようですね。

どんなステージになるんでしょうか)

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Jack

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