Power to the PEOPLE!!!/「スラムドッグ$ミリオネア」
武田百合子さんのソ連旅行記「犬が星見た」(中公文庫)の中に、日本人の「顔つき」についての、印象的な描写があります。
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遠くからこちらへ歩いてくる日本人を見ていると…
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顔がみぃんな「米」印だ、
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というんですね。
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外国の人は、歩きざま、他人と目が合うと、自然に社交的にほほえんだりする。
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そうでなくとも、穏やかな顔して歩いてる。
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ところが、
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日本人ときたら、遠くからでも分かるくらい、顔の中心部に向かって、こう、くしゃーっと(わかりますよね?)…
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苦虫噛み潰したような、仏頂面で、不機嫌そうに、せかせかと歩いてる、と、
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それを「米」印だとおっしゃった。
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もちろん、まだ、顔文字なんて、無い時代の本ですよ。
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なんと、感性の豊かな表現をする人なんだ…、と思いました。
(高度成長期の日本人は、そういう顔をしてたんですね。いま、どうだろう)
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武田さんは、その感性で外国を新鮮な目で見て歩き、ひるがえって、日本を活写されたわけです。
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で、
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こういう、「ものすごく連想力豊かな旅行者の視点」と同じような目線で描いたのが、この映画ではないだろか。
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「スラムドッグ$ミリオネア」
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インド。
混沌と、むせるような「人いきれ」の覆う国。
始まりは警察署。
捕まった主人公ジャマール(デーヴ・パテル)が、尋問を受けています。
理由は、彼が出演した視聴者参加クイズ番組、「クイズ$ミリオネア」で、不正をはたらいて答えた容疑。
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貧民街出身の無学なジャマール。
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彼は、なぜ、次々と問題に答えられるのか?
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警官の執拗な尋問に、彼はこれまでのいきさつを語りだす。
兄サリム(マドゥル・ミッタル)と過ごした少年時代…
想いを寄せる娘、ラティカ(フリーダ・ピント)のこと。
果たしてジャマールは、本当に不正をはたらいたのか?
賞金は、どうなる?
ラティカとの、恋の行方は?…
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いやぁ!
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圧巻です!
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カメラと編集が、とにかく圧巻。
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この映画を観るまで、僕は、「ムンバイ」という街があることすら、知らなかった。
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ムンバイの窮屈な街路を埋めつくす、人、人、人…
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それだけでもう、この都市、この国の「エネルギー」が、伝わってくる。
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…ですが、その「ハッとさせる驚き」というのは、
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この街に初めてやってきた「余所者」の観点だと思うんです。
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ダニー・ボイル監督は、自分が「インドの中の異邦人」である、という弱点を最大限、逆手に取って、
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ゆさゆさと、爆発するような、人々の生活臭漂うムンバイやボンベイの、血肉溢れる躍動感を撮っている。
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撮り手が、コキチャナイ子どもらや、それを搾取しながらしたたかに生きるスラムの大人たちの姿に、いちいち、わくわくしたり、ドキドキしたり、興奮しながらカメラを回していたらしいのが、分かります。
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その感激は、異邦人だからこそ味わえて、撮影できた感激ではないでしょか。
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まったく未知の土地へ「旅行者」として訪れて、当然のことながら勝手が分からないので、右往左往する羽目になり、しかし、
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その過程で、昔からその場所に馴染んでいる地元民たちが気にも留めないような何かの対象に気付き、ハッとしたり、ドキッとしたり、
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そのたびごとに、鋭い観察眼を発揮して、ひとを感心させるような記述を残していく…
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そんな旅行記が、あるでしょう?
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椎名誠さんや星野道夫さんの文章に、そんなところがあるじゃないすか。
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「ガンジス河でバタフライ」という、長澤まさみさん主演の(クドカン脚本の)、えれぇ面白ェドラマもあったし。
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そうして、まことに自然な流れとして、藤原新也さんの「メメント・モリ」(三五館)を連想します。
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この映画は、そういう、ちょーアタマが良くて鋭敏なセンスの、「観光客」の視点に仲間入りしてる、と言えるのではなかろうか。
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ひじょーに洗練された酒脱な都会的センスと、ものすごく猥雑な「庶民のエネルギー」の――なんと言うか――「幸せな結婚」を見る感じ。
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思えば、ボイル監督がスコットランドでチンピラたちを撮った「トレインスポッティング」も、どこか「エジンバラ」という街に対する、異邦人的視点の光る映画でありました。
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イギリス北西部のランカシャー州に生まれ、ケルト文化の根強いウェールズの大学に学んだ人、ならではの、「余所者」としての「街に対する面白がり」が、「トレインスポッティング」には、溢れていたように思います。
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こういう、「どこへ行っても、余所者の観点を持ち続ける」人を、
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本物の都会人
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と呼んでいいかもしんない。
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都市というのは、ある種、「あぶれ者」の集まる場所です。
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♪ ふるさとを離れ、
♪ 流れ流れて
♪ たどり着いたよ
♪ この街に
♪ 明日には
♪ ここに居るのか
♪ わからない
…てな感じです。
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近郊都市に定住してる者から言わせてもらうと、
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都会人てのは、どっか流れ者的な感性の、カタマリであります。
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今度の「スラムドッグ$ミリオネア」は、流れ者ダニー・ボイルがすべての観客に訴える――すべての観客がちょっとは持ってる「放浪者精神」に訴えかける――、ダイナミックな観光映画と見ましたです。
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最後のワンカットが、素晴らしく洒落てます。
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(あー、蛇足をひとつ。
僕もたいして博識じゃないですが、雑学クイズに詳しくない方のほうが、この作品のラスト20分を、より楽しめると思います。
僕はジャマールが「ファイナル・アンサー」って言う前に、「やったぁっっ!!」て、心の中で、叫んじゃったんだ。
そこだけ、惜しい!)
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(でも、すごく感心させられるものを見せていただきました)
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2009年度、アカデミー監督賞ほか、8冠に輝く。
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Jack
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