システムとフォールト/「ハッピーフライト」
僕が今までで三番目に勤めた会社というのが、今では、その業界でも老舗で最大手ということになっています。
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僕が入った当時は、その業界全体が、まだ「新しいビジネス」として注目されだした頃で、老舗と言われるその会社にしても、創業20年経っていませんでした。
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主に電話を利用するんですが、依頼企業・団体の、一般顧客に対する「受付窓口」となります。
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通販の受付、製薬会社の商品問合せ窓口、コンピュータ会社の「操作方法」に関する問合せ、そうして、それら全ての会社の、クレーム対応…
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多種多様な電話による受付により、接客応対のノウハウを持ちますから、
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そのノウハウを持って、臨機応変に調査と情報収集が出来る。
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(雇ってる人間の数が、10人や20人じゃないんです。世論調査にアンケート、その気になれば、「リサーチ」なんて、簡単です)
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さらにはそうした活動を経て手にしたデータを元に(市場の動向やニーズが分かりますから)、依頼主である企業・団体に、次なるビジネスモデルの提案をする、てなことが可能でした。
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で、そういう会社ですから、人材がイコール「商品」ということになるんですね。
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応対の言葉遣い、どうやって電話の向こう側にいる相手を「ノセる」か。
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言ってみれば、B to C(ビジネス・トゥ・コンシューマー = 企業対顧客)におけるQC(クオリティ・コントロール = 品質管理)が問題になってくる。
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早い話し、個人個人の「勘」に頼って「接客応対」していたのが、次第に、場面場面に応じて最もていねいで、相手の言葉を引き出しやすい「モノの言い方」が研究され、「○○という場面では、●●と言ってください」なんて、マニュアル化されていくことになる。
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一例を挙げれば、僕の長くいた部署では、通販の受付をしてたんですが…
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顧客との会話の最後に
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「1週間前後でお届けできるかと思います」
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と言うのが、定式でした。
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これは、三重の曖昧文です。
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1週間「前後」でお届けできる「かと」「思います」
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と、言ってるのです。
確約してないわけです。
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それでも、自分の都合のいいように聞き違える顧客が絶えないので、1日でも着荷が遅れると、クレーム対応部署は、大騒ぎ。
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しかし、ここにもちゃんと、受け答えのノウハウが在って…
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いや、
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…ちょっと待って下さい。
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「人材が商品」じゃなかったのか?
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すべて、応対・接客の方法をマニュアル化していくなら、「多様な人材」の必要は、どこに生じてくるのでしょう。
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これが、伸び盛りの業界が、「巨大産業」へと変貌していく際の、ジレンマだったと思います。
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僕が入社したとき、既に、「会話術研究室」のようなものが本社に存在しておりまして、
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そこから派遣されたティーチャーに、話し方をいちいち、チェックされましたが、
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面白いのは、ですね、
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産業上のフォールト、「傷」と見なされがちな、個人的な「話し方の悪いクセ」が、
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その事業全体を俯瞰する「マクロな視点」で眺めたとき、ある種、そのビジネスにとっての「アクセント」になっている、という点でした。
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アクセント。
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そう言っただけで、伝わりますか?
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「ハッピーフライト」
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ある日の巨大空港。
これからホノルル便が出発します。
新人CA(綾瀬はるか)にとって、国際線デビューの日です。
ワクワク、ドキドキ。
一方、同じホノルル便に乗る副操縦士(田辺誠一)にとっても、今日は、ドキドキの日です。
正操縦士になるための最終試験が、このフライト。
優しいことで有名な教官(小日向文世)が風邪で、見るからに厳しそうなキャプテン(時任三郎)に、バトンタッチ。
波乱の予想される飛行です。
空港内では、グランドスタッフ(田畑智子)たちが、満席ギリギリのシートに、どうお客様を詰め込むかで、アタマを悩ませています。
ほかにも空港管制官、機体整備士、バードストライク(鳥による飛行妨害)を防ぐための「鉄砲」係…
一便飛ばすだけでも、無数の関係者が、存在する。
みんなが右往左往している頃、ディスパッチャー(運行管理責任者 : 岸部一徳)のもとには、台風の進路予測が、届けられておりました…
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寺島しのぶ、吹石一恵、笹野高史といった面々が、脇を固める。
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…と、言うより、この映画、誰が主役というわけでなく、「飛行機一機を飛ばすこと」にまつわるお話の、いわば「部品」として(乗客でさえも)、みんなが機能してる感じです。
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このテの映画の白眉として、アーサー・ヘイリー原作の、1970年のハリウッド大作「大空港」を、連想しない人はいないでしょう。
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ヘイリーは、大空港のダイナミズムを、「大吹雪」と「ハイジャック」という「事件」を持ち込んで、いかにもアメリカ的に、派手に描いてみせたけど、
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いつものように脚本を書いた矢口史靖監督の視点は、違う。
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「大きな流れ」というのは、その中に飛び込んでみると、「大きい」というだけで、もう、事件なんか付け足さなくとも、充分にオモシロイのです。
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というより、正確に言おうとすると、「大きい流れ」なんてものは、はじめから存在せず、あなたは、個別の「小さなエピソード」が、様々な確率で「つながり得る」のを体験することになるのです。もちろん、
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矢口監督の興味・オモシロがりも、そこにある。
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「全体」は「一部分」の寄せ集めに過ぎず、「一部分」は、「全体の在り方」(この場合は「企業風土」)を抽象している。
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フラクタル図形みたいなものです。
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外からだと巨大な「管理機構」にしか見えないものが、内部に入り込んでしまうと、
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「よく、こんな“ていたらく”で、やっていけるなぁ」
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としか思えないほど、ヒューマン・エラーの連鎖で出来ていたりする。
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そういうところばかり狙って映しているので、これは、撮影に全面協力したANAを、誉め称えるべきでしょう。
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こんな、オチャラケた会社って宣伝しちゃって、ええんかいな。
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あ、いやいや、
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野球の珍プレー好プレーじゃありませんが、おバカなヒューマン・エラーのあとには、かっこいいプロフェッショナリズムあり。
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そんな描写もリアルです。
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リアル? はい、そうなんです。
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この映画、「あー、ありそうだな、そういうこと」っていう「ほほえましい」エピソードの連続なので、ちょっと、「嫌いになれない」でしょう。
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本作がテーマとしているような問題について、僕は何度も考えたことがありますので、
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正直、僕自身にとっての「新鮮さ」には、ちと乏しい。
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しかし、このテーマは、古くて新しく、
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出来れば「現代社会に生きる」自覚のある人みんなが思考してくれるといいな…と思っていたので、こういう「新規参入」は、大歓迎です。
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快調にヒットしてるようですから、「企業社会の全体主義」について、ウケてからハッとする人も増えるといいな。
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こういう内容を、理想主義的に描く矢口監督にも、僕ぁ、圧倒的に好感持ちます。
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この監督さんが、どうして、長年企業の中で過ごした人間を納得させるような視点を持っているのか、そこンとこ、とりわけ、興味ありますね。
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(1人は全体のために。全体は全体のために)
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Jack
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