肉食の思考やら、世間やら/「イーグル・アイ」
(電話が鳴る)
「青木さんですか」
いいえ、違います
「ああ、どうも」
―――――
(別の日)
「もしもし、青木さんですか」
いいえ、違いますけども
「失礼しました」
―――――
いま住んでいる家に引っ越した当初、我が家には、たびたび、間違い電話がかかってきました。
―――――
青木さん
―――――
青木さんとは、何者なのか。
―――――
どうやら、僕らが越してくる前に住んでいた人らしい。
―――――
いや、大家から、前の住人については、聞いていない。
―――――
新しい電話番号が、似ているだけの人かもしれない。いずれにせよ、
―――――
青木さんとは何者なのか?
―――――
「イーグル・アイ」です。
―――――
コピー屋の店員ジェリー(シャイア・ラブーフ)。
実家からの電話で、家族が亡くなったことを知らされます。
悲しんでいる間もなく、身辺に奇妙なことが起き始める。
突然、銀行預金が莫大な額になり、自宅に大量の銃器が送りつけられ…
驚く間もなく、携帯に謎の相手から電話が。
「FBIが来る。30秒で、逃げなさい」
これは、なんの罠なのか?
同じ頃、全く別の場所で、シングル・マザーのレイチェル(ミシェル・モナハン)が、やはり謎の相手から、電話を受けておりました。
「子供の命が惜しければ、言うことを聞きなさい」
誰なのか?
ジェリーとレイチェルは、いったい何に巻き込まれたのか?…
―――――
で、お話し変わって、
―――――
僕が以前勤めていた仕事場について、申しましょう。
―――――
そこは、オフィスビルの、階数では真ん中辺りにあり、
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業務の大半は、パソコン(ではなく「端末」)と、にらめっこ。
―――――
始終、社内の別部署や、社外のお客様から電話を掛けたり受けたりするものでした。
―――――
当時は、「セキュリティ」には、まだ、それほどうるさくなかったので、顔見知りの警備員に挨拶して通れば、名札やIDカードを忘れても、中に入ることが出来たんですが、
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初めて東京都心部にある本社を訪ねて、その、本格的な管理システムに、田舎者として、恐れ入ったことがあります。
―――――
これは、もうだいぶ以前から、インテリジェント(情報)ビジネスにおいては、現実の、当たり前のことになってますので、知らない方は、そのおつもりで、お聞きください。
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まず、第一に、表玄関には、人がいません。
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受付も、なんにもなし。
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デザインされた、ひんやりした、エレベーター・ホールが在るだけです。
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「用のある人間しか、やって来ないし、用のある人間は、何階に行けばいいか、知っているはず」だからです。
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分からないことがあれば、携帯で、行きたいオフィスと、コンタクトを取ればよい(この、「微妙に日常的な日本語から離れていく」ニュアンスを嗅ぎとって頂きたい。業界人の大半は、「連絡する」などと言うのを好みません)。
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第二に、各階の廊下(「通路」と呼ぶ)側には窓がない。ま、これは、どの事務所でも、似たようなものですが、
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カーペットもなにも敷いてない通路と、のっぺりした壁が長く続く間には、「○○室」、「○○部」などの案内盤すら着いてません。
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これも「セキュリティ」上の問題ゆえ、です。
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目当ての部屋に入ります。
あなたは、どの部屋に入るべきか、知ってるのです。
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電話が一台置いてある横を通って、仕切りの奥へ。
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この電話は、日々訪れる来客が、部屋の奥にいる接客担当に、来訪を告げるためのものなんです。無視してください。
―――――
間仕切りで仕切られた内部に、来客用の応接セットが置いてある。
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そこは適度に狭いスペースです。
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あくまで、他人には、中を見せない仕組みです。
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その応接セットの後ろ側にドアがあり、脇に、テンキーの付いたキーパッドが、取り付けてある。
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教えられたコードを入力し、ドアロックを解除して、やっと部屋の中へ。
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内部に広々とした空間がある。
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今度はパースペクティブが一変します。
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管理ブースに居る部長は、部屋の隅々まで見渡せる。
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室内には、百人前後の係員たちが居ます。
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それぞれの机は、部長の視線を邪魔しないよう、巧いこと、間仕切りで仕切られてる。
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部長のデスクに置かれた「端末」には、今日1日の、各人の業務内容を表示させることが可能です。
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加えて、
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各人は、ヘッドホンとマイクを着けてる。
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外部からの電話も、社内通話も、これでやり取りが原則です。つまり、
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トイレ以外の用で、席を立つ必要が、ありません。
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で、
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初めて、こうした仕事振りがあることを知ったとき(もう20年近く前のことになりますが)、直感的に思ったものです。
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いや、待てよ、と
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出入りに、警備員はおらず(実はカメラで、覗かれてる)、部屋に入るまで、まず、どの社員とも出会わない。
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仕事部屋に入るには、誰かに挨拶するのでなく、電子ロックを解除する(現在では、指紋認証や静脈認証を用いるのが、常識です)。
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席に着いたら、ヘッドセットを着用し、誰かに用があれば、内線ボタンを押して話す。私語禁止。ということは…
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この仕事の「理想」には、「人間と、じかに接しない」ことが、絡んだりしているわけだ…
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「人間と接しない」ことが常態化していくと、その人間は、どうなるか
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僕らの持っている感情、そう、「人間らしい」感情というものは、赤ちゃんの頃から、元々備わっているのでしょうか。
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脳科学が、これにどう答えるか知りませんが、それは、自然な学習の結果、豊かになっていくものじゃなかろうか。
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だとしたら、上に述べたような、システマティックな仕事をして1日の大半を終える日々が続くというと、
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その人間は、次第に「学習したこと」を忘れていってしまわないのか
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どうでしょう。
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実は、こうした疑問に、俄然、興味を示しちゃう人が、います。
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それは、「もともと、どっか、壊れている」人なんです。
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良いほうの表現で、呼びましょか。
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そういう人を、「芸術家」というんです。
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彼、彼女が病院送りにならずに済んでいるのは、ただ単に、「表現のための“類いまれ”な手を持っている」という、その一点の理由に尽きます。
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今まで述べてきたような環境を、一般的に「非人間的」と見たりするのは、芸術家たちが、その目で、ちょっと通りすがりに見て、その手で、見たものを、誇張して伝えることを、繰り返しているからです。
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彼らの言うこと――「現代生活は、非人間的である」と言うこと――は、当たっているか。
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はい、当たっています。
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経験から述べますが、「仕事の方法」について思案する人々は、ほぼ例外なく、それを洗練させようとしていきますので、その過程で、「それは、人間的ではない」という問題に必ずぶち当たるはずであり、
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これに解答を見つけようとしない人を、「非人間的」と断じても、よいのです。
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しかし、面白く在るもので、人間には「洗練させたい」という志向への反逆の精神というのが存在します。
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それを「肉食の思考」と呼びましょう。
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人間・非人間という分け方が、西欧的なものだからです。
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日本の現代ビジネスというやつは、長く続いて今もしぶとく根付いている、「和の社会観」の上に載っているものです。
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人間・非人間などという分け方の、その底に、「世間」や「ご近所」、「人付き合い」などという、
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簡単には分けられぬ社会観、「世界観」が広がっている。
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この映画、興味深いのは、
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「現代、って、非人間的じゃないですか?」
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という論点を、極めて「洗練されたやり方」で、取りまとめている点です。
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それは、自己矛盾というものであり、
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例えば、アンジェリーナ・ジョリー、ジェームズ・マカヴォイの「ウォンテッド」が示したような、それこそ「肉食の思考」に欠けている。
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高度管理社会への恐怖を高度に管理された映像編集によって表そうとしたことに、
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最後まで、おそらくは作り手たちが気付かぬまま、終わるところが、これを「見事な作品」に仕立てているポイントであり、これが、
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「巨大な冗談」になってしまった由縁でもあるでしょう。
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こういう映画を「冗談として楽しむ」なんぞと言うと、イヤミなだけかもしれませんが。
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(世の中は、とっくに、「肉食の思考」を必要とするようになっている)
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(なんてね、
それは、表面的な問題です。
実際には、あなたは、毎朝エレベーター・ホールでバイトの学生たちと一緒になり、パートの奥さんたちは、私語禁止にも関わらず、自分らの子供や姑について、しきりと語り、そうして、なんと、部長自身が、個室的ブースにこもるのに退屈して、部下たちと話しに来る。
「洗練された管理」と「肉食の思考」と「世間的人付き合い」は、絡み合い、問題を複雑にし、結局は、「人間に出逢う」のだ、と、
わりかた、僕は、楽天的に捉えたりしてるんですが)
―――――
Jack
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