色褪せぬ言の葉/「ルイスと未来泥棒」
今は昔。
未来は輝いていた。
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何度か書いたと思うのですが、僕の「原体験」と言っていいのは、アポロ宇宙船の月着陸です。
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いま、スペースシャトルが宇宙ステーションまで飛んでも、誰も騒がないと思いますが(へー、だから? って感じでしょ?)、アポロの月面着陸は、そりゃもう! 大ニュースでした!
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テレビは1日中、アームストロング船長の「着地の瞬間」を写しっぱなし。
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これは小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ。
by ニール・アームストロング
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この言葉を何度、聞いたことでしょう。
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1969年、夏休みも間近。
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僕は、テレビにかじりつく4才でした。
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「ルイスと未来泥棒」です。
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赤ちゃんのとき母親に捨てられ、施設で育った主人公ルイス。
発明好きの科学少年。
だが、その特異な性格ゆえ、なかなか良い里親に会えません。
なんとか自分の本当の母のことを思い出そうと、「記憶スキャナー」なる珍発明を考案しますが、それをコンテストに出品した矢先、
謎の山高帽の男に、奪われてしまいます。
そこへ、どこからか、時空警察の捜査官を名乗るウィルバーという少年まで現れて…
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原作はウィリアム・ジョイスの絵本「ロビンソン一家のゆかいな一日」。
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本来、ウィルバーが主人公だったものを、大胆に設定を変えてあります。
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監督のスティーブン・J・アンダーソンは、自分で「山高帽の男」の声優まで務める入れ込みよう。
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その結果、この映画、単なる子ども向けと言うよりは、フレドリック・ブラウンやハインラインの短編、アシモフやらクラークやら、それに、ロバート・シェクリィなんて作家たちを思い出す作品に、仕上がりました。
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要するに50年代のSF小説黄金期を思い出させる作りです。
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ウィルバーが乗ってくるタイムマシンやルイスが作る「記憶スキャナー」のかたち、未来世界の建物、ロボット、未来建築内のインテリア・デザイン…
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何もかもが、科学の輝いていた50年代風なんです。
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未来を描いた映画がノスタルジーを感じさせるとは、どういうことか。
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それは、例えば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」などにも言えたことなんですが、この映画の作り手全員に、「未来の大人たちへ、ワクワクする科学の楽しさを伝承しよう」という“意図”があってのことでしょう。
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ですが、日本においては、科学がノスタルジーを連想させると、別の感想に捕らわれます。
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今、科学が色褪せてしまったのは、なぜなのか。
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色褪せてる?
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そう思いますよ。
子どもたちは、理科に興味を示さなくなっている。僕は、ゲームのようなものに夢中になることと、「科学的関心」を持つことは、別であると思っています。
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ひところたくさんあった一般向けの科学雑誌も、ほとんど全て廃刊になってます。
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僕が子どもの頃、例えばマンガやテレビ番組と言えば、その半分くらいは、「SFもの」を指していた。
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小松左京や星新一、筒井康隆は、ベストセラー作家だった。
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いや、マンガやテレビがSF調なんですから、別にSF小説を読んでいなくとも、自然とみんなが「SF的思考」に慣れ親しんでいたのです。
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マジンガーZも仮面ライダーも、ウルトラマンも、もちろんゴジラだって、SF作品だったんです。
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再び問おう。
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科学が色褪せたのは、なぜなのか。
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明らかに科学の時代になったのに。
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インターネットがなければ、夜も日も明けぬ。
そんな人が、きっとたくさん、いるだろうに。
テレビは地デジだし、クルマはハイブリッド。
オール電化のIHヒーター(それともガスパッチョ)。
なのに。
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僕自身のことを言えば、僕は間違いなく「医療という名の科学」によって、正気を取り戻しました。
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また、僕はぜんそくでもあるのですが、これもステロイド剤という科学の発達によって(30年以上前は、肺に穴があくと言われるような、恐ろしい副作用があった)、見事に克服できました。
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そうして、何よりも「携帯電話」!
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今の技術をもってすれば、腕時計型携帯電話の開発まで、あと一歩というところでしょう。アトムの頃、夢に描いた技術です。だが、今や誰もが同じように思ってる。
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そんなに小さくして、どうする?
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思うに「科学の未来」が色褪せたのは、日本に特有の現象で(米国では、「HEROES」のようなSFが今も絶えない)、それは、「アメリカという“未来志向”の世界」に対する熱が冷めたことと、無関係ではないと思う。
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公害問題が叫ばれて、科学万能信仰が崩れたから、だけではない、と思うのです。
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「ルイスと未来泥棒」中、ハッとさせる台詞がある。
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「想像力と科学を駆使すれば 世界は もっとよくなる」と言うのです。
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僕思うに、こういうプリミティブな言動が、近年の我が国にはどこか欠けている。
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「崖の上のポニョ」を作らせた、恐ろしく複雑な“動機”よ!
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それは、以下に示すような、力強い「確信」が、この国に一時的に伝播して、そして今、「もと通りに」次第に薄れていることと関係があるでしょう。
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「薬物を投与するのでもなく何らかの運動療法を施すのでもない精神分析に何か効果があるとすれば、それは言語の力によるものだと考えることができる。つまり言語は人間に影響を及ぼす力を持っており、その力によってわれわれの抱えるさまざまな問題を解決しようというのだ」
『思想』2008.9 ――向井雅明 ジャック・ラカンの理論的変遷(1)――
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ここで言われている「言語」を、今だけ「言論」と、言い換えても、よいことにしてみましょう。
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今の今、明らかに「言論」に、世の中を動かすほどの力はない。
(かつては、あったのか? もちろん、あったのです。サルトルの時代、やはり1950年代のことですね)
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「言論の力」と「科学的思考」の関係は、この国にいると見えにくいけど、西洋では、歴史も古く、深いつながりのあるものです。
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「言論や政治によって、人は社会を変えられる」
「科学的思考で、世の中は、もっと良く出来る」
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この2つの考えは「二卵性双生児」と言ってもいいほど、近接関係にあるのです。
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だから、この2つをつき混ぜた国アメリカでは、今もSF志向が絶え間なく作品を送り出している。
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正直言ってこの「ルイスと未来泥棒」、魅惑的なビジュアルに比べ、野心的に変えたストーリーのほうは、やや野心が空回りと言いますか、もしかすると、平板に流れてしまったよう(特に、タイムトラベルものの「鍵」を握るネタが、途中で割れちゃうの)ですが、それでもこれを推すのには訳があります。
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「KEEP MOVING FORWARD」
前へ進み続けよう。
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劇中でさかんに出てくるこの言葉が、一体どんな意味を持っているのか、最後で驚く。
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ああ、そうか…。
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この映画の作り手たちは、そういうことを伝えたくて、撮ったのか…。
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僕は、この映画にあるような精神は、大いに参照してよいと思う。
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「革命」によって、前に進んできた国の「息吹き」を吸うのは(革命とは、新しい言語が旧い言語にとって代わることを言う。
日本で、いちばん決定的だったのは、明治維新もそうですが、もうひとつ、貴族から武士の時代へと変わった頃に求められると思います)、今や「穏やかなる低成長」を理想に変えつつあるこの壮年国にいても、とても「いい感じ」のことだと思うのです。
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ただ、ノスタルジーに浸るだけでなく。
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僕は、爽やかなる「科学理想主義」を応援したい気分です。
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(それは、言葉の中に、パワーを吹き込むことと、同根であるからです)
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Jack
(そうです。あなたとは違うんです。いや、違わないかな)
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